宵桜



 はらり、はらり…。

 一遍の花弁が、透き通る美酒の上に舞い落ちた。
 僅かに広がった波紋を、紫暗の瞳が静かに見つめ、その桜が浮かんだままの酒を口元に運び、こくりと喉を鳴らして飲み干した。
 「…こんなところで、一人手酌でお花見ですか?三蔵…」
 桜を震わせるように突然響いた声は、しかし、耳障りなものでなく、寧ろしっとりとこの空気に馴染んでいた。
 「…八戒」
 「水を飲もうと目が覚めたら、いないんですもん…探しましたよ?」
 八戒の口調は責める風ではなく、本当に心配していたという感じで…。
 「…なんです?」
 三蔵が黙ったまま、冷酒の瓶を八戒へと差し出した。
 『おまえも呑め』と言うことなのか『おまえが注げ』と言った意味なのか…。
 どちらにせよ、三蔵は八戒をこのささやかな花見に付き合わせるつもりのようだ。
 「…あと30分だけですよ」
 やれやれとため息を吐いて、八戒が三蔵の隣に腰を下ろす。
 見上げれば、目の前には満開の桜の巨木。
 「ああ、綺麗ですね…」
 よくもまぁ、こんな場所を見つけたものだ。
 「…本当は…」
 ぼそりと三蔵が呟いた。
 「昼間に見つけて…お前と二人で見ようと思ったんだが、…よく眠っていたから…」
 起こせなかったのだと、三蔵は言外に言った。
 「…三蔵?」
 らしくない言動に、八戒が目を瞬いた。
 「酔ってるんですか?このくらいで…」
 苦笑しながら、三蔵の冷酒瓶に手を伸ばし、空になっている杯に酒を注ごうとしたとき…。

 『ゴト』

 三蔵の影に隠れてわからなかったが、すでに空になっている瓶が転がった。
 「…………」
 よくよく見るとその数、いち、にい、さん……恐くてそれ以上は数えられない。
 「…三蔵…」
 「ん?」
 「貴方いつからここにいました…?」
 「一時間ほど前からだが…」
 大きな瓶で無いとは言え、このペースは早い、早すぎる。
 「三蔵!今すぐ宿に戻りましょう!でないと、貴方…」
 「…うるさい」
 八戒の襟首を掴まえ、噛み付くように三蔵は口付けた。
 それによって伝わる、アルコールの味。
 (や、やっぱり、この人かなり酔ってる…)
 抵抗のタイミングを逃し、八戒は木の幹へと体を押しつけられ、目の前で睨むように自分を見詰める男に、縋るような視線を送った。
 「三蔵…まさかとは思いますが、こんな所で…」
 「30分は良いと言ったのはお前だぞ」
 主語が、違う。
 「僕はそういうつもりで言ったんじゃ…!」
 「安心しろ」
 三蔵は口の片側だけをニヤリと上げた。
 「時間内に終わらせてやる」
 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」




 本当に時間内で終わったのか、翌日、出発が延期された原因は三蔵の二日酔いだったのか、それとも八戒の腰痛だったのかと言うのを知っているのは、あの桜だけ…。



 END

   書き逃げごめん。
 「この人見た目よりかなり酔ってる(汗)」さんぱちで桜の下で冷酒を飲みながらって事ですが・・・、ちょっと、たまにはあまり書かないような雰囲気のものに挑戦しようとして、玉砕粉砕(切腹)
 短いし・・・


 この話は17764(三蔵の身長体重)キリバンHITした、サリィさんに捧げます。(次はもうちょっとましなものを差し上げられるようにがんばります・・・(涙))







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