「美人にフラレたのは2度目だぜ」
無意識に呟いた自分の言葉で、初めて気づいた。
───あぁ、そうか・・・。フラレたのかオレ・・・。
「自惚れてたのか?」
生臭坊主が鼻で笑うように言った。
「・・・・・・・まーね・・・」
嘘。
生きてほしいとか、ここに戻ってきてほしいとか・・・・・・。
そんな風に自分が思ってたこと
気づいていなかった・・・・。
「綺麗な赤ですね」
一瞬鼻をくすぐる、ともすれば懐かしくさえある香り。
「悟浄」
キレーな声がオレを呼び、極上の笑顔が向けられる。
あ・・・やっぱコイツ美人だわ。
「・・・ああ」
そう答えてみたけれど、内心「お前のほうが何倍もキレーだっつーの」なんて思ってみたりする。
チクショー、あのクソ坊主。ハメやがったな。今度会ったらタダじゃおかねぇ。
・・・と、思ったけど・・・。
あんまりコイツがオレを見て嬉しそうに微笑うから・・・・。
・・・ま、いっか。・・・うん、いいや。
こいつが生きてたんなら、それでいいや。
「・・・おい」
「はい?」
家の玄関前、オレより数歩下がって歩いてた奴に振り返り、声をかけると、「何ですか?」と小首を傾げながら嬉しそうに答える。
呼吸ひとつ。こっ恥ずかしいので目は見ないで一言。
「・・・おかえり」
オレの言葉に一瞬驚いた顔。
そりゃそうだろ。オレだって驚いてんだから・・・こんな台詞。
そして、次の瞬間には少し照れくさそうな微笑。
「・・・はい。・・・ただいま」
その声は小さかったが、確かにオレの耳に届いた。
一緒に暮らそうなんて言うんじゃなかったと、後悔するのにそう時間はかからなかった。
あの笑顔を、毎日見れるなんて最高じゃん?
なんて軽い気持ちで誘った同居生活であったのだが・・・。
・・・・・・失敗した・・・・・・。
ここの所、悟浄の思考はこのことにばかり支配され、頭を抱える毎日だ。
・・・自分自身、彼に対する自分の感情が既に友情の域を逸脱してしまったものだと言うことは分かっている。
共に居たいと思ったから、素直な気持ちでそれを口にしただけ。
・・・だったのだが・・・。
「『傍に・・・』云々だけでガマンできるわけ無いだろ、このオレが・・・」
バカかオレは!!・・・と自分の読みの甘さを責めたところで、状況が変わるわけでもないので、悟浄は取り合えず目の前にあるカードに集中することにする。
「なぁーに悟浄。怖い顔して。何か言ったぁ?」
取り巻きの女の一人が甘ったるい香水の香りを纏わせて猫なで声でしなだれる。
「んでもねぇよ。ほい、フォーカードね」
「げっ!オイオイまたかよォー」
今夜のカモがゲンナリと項垂れるのを見て、周りの女たちが可笑しそうに笑う。
「調子良い割には冴えない顔ね、悟浄」
さっきとは別の女が悟浄の肩にもたれながら言った。
「つまんないなら、私と楽しい事する・・・?」
また別の女が耳元で囁く。
すると女たちの中から「アンタじゃダメよ」と笑い声が聞こえ、どうしてよ、と膨れる彼女に誰かが言った。
「だって悟浄最近、緑の瞳の娘しか相手しないもの」
─────・・・マジ?
オイオイオイ・・・そこまで重症かよ、オレ・・・。
言われた台詞に内心泣きたくなった。
緑の瞳・・・無論、誰かさんを無意識に想いながら選んだベットの相手。
なんだか自分が情け無くなってきた。
「・・・今夜はもう帰るわ・・・」
眩暈を覚えつつ、フラリと立ち上がる。
「えー、もう?ちょ・・・悟浄!」
ブーブーと文句を言う女達に後ろ手で手を振って、店を出る。
その途端、悟浄を更に憂鬱にさせる目の前の光景。
────うわっ、雨降ってんじゃん。
踏んだり蹴ったりとは正にこの事だなと思いつつ、意を決して一歩踏み出した瞬間、悟浄はデジャヴに襲われた・・・。
────・・・ん?前にもあったなこんなシチュエーション。
しばらく頭を巡らせれば、すぐにその答えに行きついた。
・・・あ、そっか。あいつを・・・八戒を拾った日だ・・・。
「ただいまー。・・・八戒?」
もう寝てしまったのだろうか?
帰宅した家は暗く沈んで、雨の音ばかりが妙に耳に付く。
体中から雨の雫を滴らせて(八戒が見たら、さぞかし怒るであろう)悟浄はタオルを取りにバスルームへ向かった。
ふと・・・足が八戒の寝室の前で止まる。
なんだか嫌な予感がした・・・。
何がどうと、具体的に聞かれると困ってしまうのだが、部屋から感じる空気が、嫌に重く感じたのだ。
「・・・八戒、寝てんのか?」
返事は、無い。
そっと扉を開けると、確かにベットの上には人の気配がする。
「おい・・・八戒?」
なるべく音を立てないように、近付いてみる。と・・・
─────・・・・あ?ナンでコイツ、頭から布団被ってんだよ。
「八戒!」
具合でも悪いのかと思って、慌ててブランケットを剥がした。
体を丸めて眠るのは・・・胎児への回帰願望だと誰かが言っていた・・・。安心するのだと・・・。
だが、今悟浄の目の前にいる彼は、まるで怯えて凍える・・・幼い子供のようではないか。
ベットの中で八戒は、小さくなって耳を両手で塞ぎ、必死に何かに耐えていた。
「はっか・・・」
驚いて肩に触れると、ビクリと過敏な反応が帰ってきた。
「あ・・・・・・悟・・・浄。帰ってたんですか・・・」
・・・今の今まで気づいてなかったのかよ。
「どしたの?お前」
どうせ本当の事なんて、答えちゃくれないだろうと思ったが、一応聞く。
「何でもないです」
─────ほらな。
オマケにご丁寧にいつもの笑みまで付けて、八戒は答えた。
・・・ここまでは悟浄の予想通りであったが・・・
「ただ・・・」
予測に無かった八戒の台詞。
上半身を起こして、窓のほうを見つめる緑の瞳・・・。
「・・・ただ?」
何かが引き出せそうな気がして、悟浄は先を促す。
八戒はそっと目を伏せ言った
「煩かったんです・・・・・・・雨の音が・・・」
それは・・・初めて見る微笑。
何て綺麗で、何て儚げで、何て妖艶な・・・。
あぁそうか・・・。コイツを拾った日はそのままコイツにとっては、あの日に繋がるのか・・・・。
悟浄は、吸い寄せられるように両手で八戒の頬を包んだ。
「!?悟浄!貴方こんなに冷えて・・・!」
雨に幾分か奪われた体温を感じて、八戒が咎めようとしたが常ならぬ悟浄の様子に怒気をそがれる。
「・・・悟浄?」
少し上向かせた八戒が、不思議そうに悟浄を見つめる。
覗き込んだ深緑色の瞳・・・いつもより闇を含んで濃いその色は、八戒を拾ったあの日の朧げな森に何処か似ていた。
「・・・聞こえないようにしてやろうか?」
「え・・・・?」
「雨の音」
悟浄・・・と、八戒が紡いだ自分の名前を、その唇で奪い取る。
初めは軽く啄ばむように・・・そして、徐々に深くしていった。
「・・・んっ・・・」
八戒が鼻にかかった息をもらす。・・・けれど、抵抗らしい抵抗は見せない。かといって、受け入れる様子も無い・・・。ただ、人形のようにされるがままになっているだけ。
「・・・・おい」
業を煮やした悟浄が唇を離し、八戒を覗き込んだ。
そこにあるのは、少し困ったような悲しそうな微笑。
その表情の意味を汲みかねて、悟浄が眉を僅かにひそめる。
「いいのか・・・? 喰っちまうぞ」
八戒は答えない。ただ笑みを深くしただけ。
軽く肩を押すと、何の抵抗も無く細い体はシーツに沈んだ。
そのまま自分もベットの上に乗り上げる。
ギシリ・・・とスプリングが乾いた悲鳴を上げた。
「・・・・よ・・・」
「・・・何?」
ここにきて八戒が、何事かを呟いた。か細い声を聞き逃すまいと、悟浄は耳をすます。
「いいですよ・・・喰べて下さって・・・。でも・・・残さないで下さいね。骨の髄までしゃぶって・・・一滴の血も残さないで・・・・」
冗談とも本気とも取れる台詞・・・。
どちらにしたって、性質が悪すぎる。
────利用されてる・・・・。
悟浄はそう感じた。
八戒は誰でも良いのだ・・・誰でも良いから今、自分を傷付けてくれる存在が欲しいのだ・・・。
心の痛みを紛らわせるために・・・。
オレは・・・
お前を・・・傷つけたいわけじゃない・・・!
言ったところで、今の八戒に悟浄の言葉は届かないだろう。
なら・・・・。
クッ・・・と口元だけで悟浄は笑う。
ならば・・・思い知らせてやればいいさ。
後悔すれば良い・・・自分を選んだことを・・・。
自分はここで酷く抱いてやるほど優しい男じゃないし、止めてやるほど紳士でもない。
手首をベットに縫い付けて、悟浄は再び唇を重ねた。
今度は最初から深く・・・口内を犯す。
髪を伝い落ちた雫が八戒の頬を濡らし、まるで泣いているかのように見えた。
「っふ・・・はっ・・・あん・・・」
一度唇を離し、唾液に濡れた八戒のそれを舐め上げると、もっととせがむ様に頭を浮かせる。
誘われるままに、もう一度深く口付けを与えれば、自由になった両腕を悟浄の首に絡めてきた。
「ご・・・じょう・・・」
上気した頬が笑みに艶を加え、壮絶なまでに美しいと思った。
抱きしめると、冷えた体に八戒の体温が気持ち良い・・・。
次に与えられるものに期待して、八戒の体がブルリと震えたのを感じ取り、悟浄は静かに目を閉じた。
今から自分が言おうとしている言葉は・・・何より今の彼にとって残酷なものだ・・・。
そういえば・・・冗談でもこんなセリフ誰かに言ったことは無かったと、悟浄は記憶をめぐらせる。
しかし、伝えなければ・・・。
(伝えたい・・・)
別々の感情が同じ目的でもって、悟浄の中に混在していた。
抱きしめる腕に力が込もる・・・。
たった数言・・・
悟浄は八戒の耳元に囁いた。
瞬間・・・ビクリと体が揺らぐ。
数秒間の沈黙・・・。
「────っやぁ!!」
突然、八戒が暴れ出した。
「やだっ!嫌ですっ。放して!!」
悟浄の腕から逃れようともがく彼を、渾身の力で押さえ込む。
手酷い裏切りだ・・・と思った。
悟浄は自分を裏切ったのだと・・・。
自分は慰められたい訳じゃない、優しくされたい訳じゃない。
ましてや、愛されたい訳じゃない・・・・!!
「オレがお前を愛したいんだよ!!」
何かを吐き出すかのように悟浄が叫んだ。
驚いて、八戒の動きが止まる。
「オレが・・・愛したいんだ・・・」
母さん・・・今なら貴方の気持ち、痛いほど解るよ・・・。
八戒の中に見え隠れする、自分の知らない女の影を心底憎いと思う・・・。
連れて行かないでくれ・・・。
もう充分だろ?
満足だろ?
これ以上あんたは八戒の何が欲しいんだ!!
「・・・・・して・・・・・?」
八戒の呟きに気づき、身体を離して瞳を合わせると、彼がそっと頬に触れてきた。
「どうして・・・泣いてるんですか・・・?」
「・・・・え?」
自分の頬に触れてみる。言われて初めて、自分が涙を流していることに気づいた。
「どうして・・・?」
無垢な子供のような顔。
先ほどまでの淫蕩の色は、今はその瞳に見受けられない・・・。
頬に触れている手に、自分の手を重ねた。
「お前が・・・泣けないから」
手のひらに恭しく口付ける・・・。
「だから・・・代わりに泣いてやってるんだ」
八戒は困ったように悟浄を見つめる。
やがてそっと腕を伸ばし、彼の頭を包み込むように抱きしめた。
「・・・八戒・・・?」
「悟浄が・・・」
何だか寒そうに見えたから・・・と呟く八戒に、熱いものが込上げる。
ああ・・・きっとこう言う気持ちを『愛しい』というのだろう・・・。
「なら・・・さ」
お前が暖めてよ。
言外に含んで子供の戯れのようなキスを送る。
途端、八戒の顔が朱に染まる。
先ほどまで、あんな痴態を演じていたとはとても思えなくて、悟浄は笑った。
大丈夫・・・今・・・八戒の中に、雨は降っていない・・・。
「しよ?」
どうせ拒否したところで今更止める気なんてサラサラ無いんデショ・・・と思いつつも、ちゃんと一応同意を求める悟浄に八戒は苦笑を洩らす。
とは言え、こちらも先ほどまでの行為のおかげで少々熱を煽られた状態のままだ。それに・・・
悟浄なら・・・嫌じゃない。
答える代わりに、瞳を閉じる。
「八戒・・・」
今まで聞いたことが無いくらい、甘く名前を呼ばれて、そっと声の主を盗み見れば紅い色が視界に広がり、柔らかく吐息を奪われた。
────僕は・・・また貴方に救われたんですね・・・。
頭を掻き抱くように腕を回せば、前よりいくらか伸びた紅い流線が指に絡み付く・・・。
「んっ・・・ごじょ・・・」
夜着の間から差し入れられた指が胸の辺りに触れると、その冷たさに八戒が息を呑む。
肌の感触を楽しむように手を滑らせると、細く白い咽が反り返った。
誘われるように唇を落とし、服を脱がせながら首筋を辿り、所々で強く吸う。
露になった裸体に、今度は悟浄が息を呑む番だった。
闇に浮かび上がる白い肢体・・・。
身体のラインを確かめるように撫で上げれば、背中が空に浮き、綺麗にしなる・・・。その顎から腹にかけての曲線が芸術的だと思った。
自分にはそっちの気は無い筈だったのになぁ・・・と、ぼんやり悟浄は考える。
何でこいつはこんなにも綺麗なのか・・・・。
「・・・誉めてくださっても・・・何も出ませんよ」
無意識に、口に出してしまっていたらしい。
熱に浮かされた微笑でもって、八戒が濡れた息と共に言った。
「勝手にもらうさ」
にっ・・・とシニカルな笑みを口元に浮かべ、悟浄は再び八戒の身体に唇を寄せる・・・。
胸の中心を弄べば、絶え間無く八戒は切なげな声を洩らす。
「も・・・そこはっ・やぁ・・・」
「じゃあ・・・何処が良い・・・?」
紅い小さな実を舌でペロリと舐めると、身体がビクビク震えた。
「あ・・・んんっ!ご・・・じょぉ・・・!」
明らかに快感を含んだ声音が自分を呼ぶのがたまらなく悦い。
それが、八戒のものであるなら尚更だ。
「ひゃっ!うんっ・・・!」
胸元に気を取られていた八戒が、突然下肢に触れられたことに身体を硬直させる。
すでに先走りで濡れたそれを悟浄はやんわりと握りこむ。
「やっ・・・!ダメ・・・ごじょ・・・!」
湿った音を立てて動き出した指に翻弄され、後は言葉にならなかった。
八戒を扱く手はそのままに、もう片方で足を抱え上げ、膝を胸まで折る。
秘部が露になるという恥ずかしい体勢にに、八戒は羞恥で顔を赤らめたが、抵抗し様にも身体に力が入らない。
一方悟浄は、内股に丁寧に口付けを繰り返し、モノ欲しそうにヒクつく菊口に唇を寄せた。
「!?悟浄!!ダメです、そんな・・・っ」
驚いて、咎めるような声を八戒は出した。
「なにが?」
それが気に入らなくて少しムッとした顔で悟浄が動きを止める。
「だっ・・・・て・・・、きたな・・・」
荒い息の元、必死で八戒が言葉を紡ぐ・・・が、言いきる前に悟浄の舌が、入り口を撫でた。
「はあっ・・・!ああぁ!」
最早、八戒の口からは喘ぎと嬌声しか出ない。
「・・・綺麗だって・・・さっきから言ってんだろ」
狭い口を、舌でこじ開け侵入させる。
ぐちゅぐちゅと濡れた音が体だけでなく、耳まで犯した。
舌の代わりに入れられて指が中を掻く度、八戒の瞳からは生理的な涙が零れ落ち、
「おねが・・・もう・・・!」
「もう・・・何?」
八戒の快感を最大にまで引き出すため、ギリギリまで焦らす。
言葉にならなくて、イヤイヤというように左右に首を振り、髪が枕に乾いた音を立てた。
そんな八戒の様子に、悟浄は知らず口元に笑みを浮かべる。
「力・・・抜けよ・・・」
「え・・・?ひっあああああ!!」
抱えられた腰に熱いものが当てられたと思った次の瞬間、それは八戒の中に沈み込んできた。
衝撃に、張り詰めていた八戒自身が、自分と悟浄の腹の上に白濁した熱を数度に渡って吐き出す。
「おー、いっぱい出たな」
クツクツと笑いながら悟浄が八戒の肌に飛んだ体液を指で擦り付ける。
「あ・・・」
余韻に流されそうな八戒を、まだ早いというように悟浄は入りきっていなかった自身を埋める。
「やああぁ・・・っ」
「まだ終わってねぇよ、八戒」
華奢な腰を揺すってやれば、苦痛とは違う吐息が口から漏れる。
その声に満足して、悟浄はゆっくりと腰を揺らす。
「ああんっ、やめ・・・ごじょお!!」
カリッ・・・と背中に立てられた爪が、紅い軌跡を書く。
「止めていいのか?ホントに」
感じてるみたいだけど・・・?と、再び反応し始めた前を握りこんで、少し乱れた息で、悟浄が囁く。
「ごじょ・・・悟浄ぉ・・・!」
まるで、言葉はそれしか知らないというように、悟浄の名前を呼び続ける八戒。
チラチラと見え隠れする紅い舌に誘われるように口付けると、いっそう深くなった繋がりに八戒が強く締め付けた。
「っはぁ・ぼ・・・僕・は・・・っ」
八戒が何事かを伝えようとしていたが、悟浄の方にもそれを大人しく聞いてやる余裕は無くなっていた。
「僕は・・・はんっ!・・・な・・・い・・・綺麗なんかじゃ・・・・ないっ」
「はっか・・・」
「僕の手・・・から・・・だ・・・・んっ!全・部・・・こんなに血で・・・染まって・・・」
そこまでが精一杯だった。
「・・・いいぜ・・・」
考えることを放棄した八戒の耳に、悟浄の声が届く。
「一緒に・・・染まってやるよ・・・二人で血塗れに濡れて・・・溺れようぜ・・・」
想いの全てを、二人は吐き出した・・・。
「─────っ、くしゅ!!」
「もう・・・しっかり身体、拭かなかったからですよ」
翌朝・・・悟浄は思いっ切り風邪を引いていた。
「あー・・・っかしいなぁ・・・」
ズルズルと鼻を啜りながら、悟浄が呟く。
「何がです?」
作ってきたお粥をサイドテーブルに置いた後、八戒が椅子をベットの横につけて腰を降ろす。
「ん?いや・・・雨に降られたとは言え」
チラ・・・。横では八戒が悟浄のためにお粥をよそっている。
「その後、しっかりあったかい思いしたのによぉ」
ニヤリと口元に好色な笑みを浮かべて悟浄が八戒を横目で見た。
「・・・・・・悟浄」
いつもと変わらない、笑顔。
「あ?何ナニv」
本懐叶って、今の悟浄はハッキリ言って調子に乗っている。
「あーん、して下さい」
「お♪食べさせてくれんの?優しいじゃん」
あー・・・と口を開けたが運の尽き・・・。
「!?うあっちい!!」
冷ます前のお粥を容赦無く、口の中に放り込まれ、悟浄は咽る。
「あにすんだよ、八戒!」
「知りません!」
真っ赤になって(もちろん羞恥でだ)怒る八戒という珍しいものを目にして、悟浄は目を丸くした。
「・・・八戒」
「・・・・・何です?」
「お前ってカワイイな・・・」
バスッ
クッションが、見事悟浄の顔にヒットした。
それでも悟浄の笑いは止まらず、八戒の顔も赤いままだ。
「・・・八戒・・・」
悟浄が手を引いて、八戒をベットへ引き込み、胸に抱く。
「もう・・・大丈夫だな」
見詰め合って、穏やかに二人で笑う。
「はい・・・。ありがとうございました・・・」
「雨が降っても・・・平気だな?」
八戒は苦笑する。
「平気・・・かどうかは分かりませんけど・・・、雨の日は嫌なことばかりじゃないって、思い出したんです」
「・・・なに?」
「貴方に・・・会えたから・・・」
緑の瞳が紅い瞳を映し出す・・・。
数秒、間を置いて悟浄が微笑んだ。
「それに・・・平気じゃなくても、貴方が一緒に堕ちてくれるんでしょう?」
「ああ・・・そうだったな」
一緒に・・・・・・・。
「とりあえず」
悟浄が八戒を覗き込んだ。
「今はこの熱を共有してみっか!」
静かに・・・唇が重なった・・・。
END.
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